2021年11月29日更新
PuckUp記事:カルビー×濵田酒造 地域の魅力再発見へ協働 垣根を越えてファン獲得(食品新聞2021.10.29)
カルビー株式会社(以下、カルビー)は、地域活性化への貢献を視野に入れた新プロジェクト「おさけあわせのたび」を企画、全国の酒造メーカーとコラボレーションすることで、お酒とスナック菓子のベストペアリングを提案することを決定しました。
今年の10月には、同プロジェクト第1弾として、鹿児島県の酒造メーカーである濵田酒造株式会社(以下、濵田酒造)と協働で、焼酎とスナック菓子のセットを数量限定でオンライン販売し始めています。
濵田酒造がこだわりを持って製造する本格芋焼酎「だいやめ~DAIYAME~」(以下、「だいやめ」)に合うスナック菓子として、カルビーの商品の中から、「かっぱえびせん匠海 海人の藻塩味」、「無限ポテトチップス 香ばし鶏しお味」、「べにはるか スイート・バター味」の3つが選定されましたが、3商品ともに、こだわりのお酒「だいやめ」の香りや味わいに負けない風味や甘さがあり、お酒もお菓子も進むペアリングとなっているそうです。
このような、お酒とお菓子のペアリングについては、ウイスキーとチョコレート、ワインとチーズ味のお菓子など、ジャンル同士の組み合わせ事例はよく聞きますが、焼酎とスナック菓子の例はジャンルとして珍しいほか、特定の商品同士と言うピンポイントでのペアリング提案となっており、あまり前例がないのではないでしょうか。また、全国規模で展開される予定の規模の大きなプロジェクトでもあり、これまでのコラボレーションとは一味違った、ユニークな視点と規模のプロジェクトとなりそうです。
(引用:濵田酒造株式会社オンラインショップ「Shochu.life」公式HP)
カルビーの新プロジェクト「おさけあわせのたび」の前身である「ラブジャパン」プロジェクトは、47都道府県ごとの地元の味をポテトチップスなどの人気商品で再現するなど、お菓子を通じて、地域で有名な産品や知られていない味などを全国に紹介してきました。
地域の食文化の発展に寄与して、豊かな生活の形成に貢献しようと言うこの取り組みを進化させた「おさけあわせのたび」では、お酒とスナック菓子のペアリングに焦点を当てており、ここ数年の家飲み需要の増加を受けて、市場が拡大傾向にある酒類に合うおつまみの候補として、スナック菓子を取り上げています。
第一弾に選ばれたお酒は、濵田酒造の創業150周年を機に、「未踏の香り」をコンセプトにこだわりを持って製造された芋焼酎「だいやめ」ですが、このお酒は、鹿児島県産さつまいもと自社製造の黒麹、そして鹿児島のシラス台地によって自然ろ過された水を原料に、華やかなライチのような甘い香りで女性にも人気のある焼酎です。
「だいやめ」と言う商品名の由来である「晩酌して疲れを癒す」と言う鹿児島の方言どおりの、家族や友人との晩酌でリフレッシュして明日を迎える鹿児島の食文化を伝える、気軽に味わえるお酒で、おすすめの飲み方は、これまでの芋焼酎にない甘い香りが楽しめる「だいやめハイボール」になります。
おつまみとなるスナック菓子候補の選定時、カルビー側は、この「だいやめ」にふさわしいようにと、同じようにカルビーのこだわりから生まれた商品を提案しました。その中から、濵田酒造の利き酒師が3商品を厳選し、今回のペアリングが決定しています。
「だいやめ」のベストペアリングに選ばれたカルビーのスナック菓子のうち、2つの商品「無限ポテトチップス 香ばし鶏しお味」と「べにはるか スイート・バター味」は、「だいやめ」同様、鹿児島県で製造されており、また、どの商品にも、「だいやめ」にマッチした豊かな風味と味わいがあるほか、次のような特徴を持っています。
「かっぱえびせん匠海 海人の藻塩味」
・通常より多くのえびを練り込んでいるほか、旨味の強い海人の藻塩を使用しているため、風味の強い個性的な味わいを持っている
・えびの贅沢な風味と香ばしい香りが「だいやめ」のさわやかな香りを引き出し、お互いの良さをしっかり出し合えるようなペアリング
「無限ポテトチップス 香ばし鶏しお味」
・SNSで話題の「無限に食べられるレシピ」から着想を得て開発されたポテトチップス
・ごま油のしっかりした味に「だいやめ」のすっきりさがマッチするペアリング
・厚切りのため芋の甘みがあり、それが「だいやめ」の甘さを引き出すペアリングでもある
「べにはるか スイート・バター味」
・鹿児島県産の紅はるかを使用しており、上品な甘さとすっきりとした後味がある
・お酒、お菓子ともに、芋を原料としていて、ペアリングもばっちり
・はちみつと紅はるかの甘さが「だいやめ」の味わいを膨らませるペアリング
本プロジェクトでは、上記のような商品のペアリングを通して、日本各地の特色や歴史などを全国に広め、地域活性化につなげていくことを目的のひとつにしています。
その土地の特産品や文化などを新商品開発に活かして地域を活性化しようと言う試みは、ほかにも見受けられはしますが、今回の場合は、商品売上の一部を地域に寄付するような金銭的な支援ではありません。
焼酎のおつまみ候補としてスナック菓子を位置づけてみたり、家族や友人との時間がより豊かになるような地域の食文化について発信したりすることで、これまでにない視点や価値観、生活スタイルを提案し、文化的な側面で地域活性化にアプローチする、ユニークな形の取り組みになっています。
人口の減少などによって、特定の地域で受け継がれてきた文化が消える危険性のある中、このように商品を通じて他の地域へ文化を広げる取り組みの持つ意味は、小さくないのではないでしょうか。例えば、文化の広がりをきっかけに、その地域の知名度が上がり、やがて地域産品の売れ行きが上昇するなど、地域活性化につながっていく可能性は十分ありそうです。
(引用:カルビーPR部公式Twitter)
業界を越えたコラボレーションによって、地域特有の食文化や名産、歴史などを再発見し、地域活性化や地域の文化発展を目指す新プロジェクト「おさけあわせのたび」ですが、業界にとらわれないコラボレーションで地域活性化を目指す事例は、これだけではありません。
実際、地元で愛されている飲料の味を再現したお菓子や、地域の生鮮品からおかきなどの常温でも日持ちのする商品を開発、お土産好適品として販売するなど、地域の名産品やソウルフードなどの素材や味を活かしたお菓子の開発は、さまざまな地域で行われています。
ただ、今回のコラボレーションには、従来のコラボ事例とは異なり、次のようなユニークな点も見られます。
・ジャンルではなく、特定の商品同士によるピンポイントのペアリングが選ばれている点
・お酒とお菓子、それぞれの商品をそのまま楽しめるようなペアリングに着目している点
・全国規模の企業コラボとして展開されている点
まず、前述のとおり、よく見られるお酒とお菓子のペアリングでは、ジャンル同士の事例の方が多く、特定の商品に言及している事例はそれほど多くはない印象です。それでも、今回の事例のような、特定の商品に触れているユニークな視点でのペアリング事例が、以下のサイトで紹介されています。
・チョコレートとお酒のペアリング紹介
赤ワイン×「ロイズオリジンチョコレート[カカオ70%]」など
https://www.royce.com/contents/mariage/
日本酒「純米大吟醸 太美」×チョコレートなど
https://www.royce.com/contents/osake/
・バームクーヘンとお酒のペアリング
ラム酒×「洋菓子工房樫の木」のバームクーヘン
・チーズなどの塩味系お菓子とお酒のペアリング紹介
白ワインや日本酒×江崎グリコ株式会社「チーザ カマンベール仕立て」
https://www.glico.com/jp/health/contents/Cheeza1005/
ビール×江崎グリコ株式会社の「クラッツ」シリーズ
https://www.glico.com/jp/product/snack_biscuit_cookie/cratz/
ワインやシングルモルトウイスキー×鎌倉の洋菓子店「レ・ザンジュ」の「プティ・フール・サレ」
https://www.lesanges.co.jp/shopdetail/000000000238/
本プロジェクトにおいても、ジャンルではなく、商品と言う特異的かつ具体的なペアリングが挙げられており、ちょっとした限定感があります。しかも、複数のペアリングから「自分はこれ」と、自分にとってのベストを選んで個性も主張できます。そのため、これまでのペアリングに比べて、付加価値の感じられる提案と言えるのではないでしょうか。
また、お酒そのものや酒粕などを、お菓子の原材料にするコラボレーションとは異なり、既存の商品をそのまま楽しむユニークな視点での企業コラボでもあります。
さらに、カルビーと言う企業の規模を反映するかのように、本プロジェクトは、全国の酒造メーカーとコラボレーションの予定であり、あまり見ない規模のプロジェクトにもなりそうです。
事実、今回の熊本県の焼酎「だいやめ」は、本プロジェクト「第1弾」であり、今後は第2弾、第3弾と、さまざまな地域の酒造メーカーがコラボレーションの対象となることでしょう。そして、現代の日本では、いわゆる日本酒などの昔から造られているお酒に限らず、ワインやビールなども製造されています。したがって、本プロジェクトの対象に選ばれるお酒も、焼酎や日本酒などの伝統的なお酒だけでなく、ビールやワイン、シャンパンなど、多岐に渡ることが考えられます。
大きなコラボレーション企画となる本プロジェクトですが、新商品の開発は伴わない形となりそうであり、新規商品の開発のように、多くの金銭的、時間的コストはかからないことが見込まれます。
このようなコストパフォーマンスのよい、省エネルギーなコラボレーション形態が選択できるあたりに、これまでに数多くの商品を開発してきたカルビーの商品ラインナップの豊富さと、知的財産でもある既存商品の有効活用や創意工夫に意欲的である企業風土などが読み取れてくるのではないでしょうか。
これまでに見られた酒造会社と食品会社のコラボレーションとは、また違った方向性が感じられる本プロジェクト。この取り組みによって、既存商品における新規顧客の開拓や商品売上の増加が見込まれることを考えると、商品開発と言うより、新たな販促手法と捉える方がより本質的なのかもしれません。
新たな視点からより深く掘り下げる形で展開される本プロジェクトは、これまでにないユニークな企業コラボとなることが期待されます。今後の動向次第で、世間からさらに注目されることでしょう。