2019年05月14日更新
ヒト・モノ・カネを地域に呼び込む仕組み作りに向けた取り組みが全国各地で活発になっています。この記事をご覧のあなたも「DMO」や「地域商社」といったキーワードを耳にしたことがあるのではないでしょうか?今回は、観光協会を解体し、10年で100社1,000人の雇用を生み出す地域商社を目指す取り組みを行っている「こゆ財団」についてです。1粒1,000円の国産ライチをプロデュースしたり、その活動は活発です。こゆ財団とはいったいどんな組織なのか?「新富モデル」と呼ばれる地域商社運営方法のポイントとはー。
PickUp記事:「こゆ財団が地方創生の優良事例に選出。若者の移住、起業に向けた取組について発表しました」(PRTIMES2018.11.28)
宮崎県中部に位置し人口約1万7千人の新富町。主な産業は農業。この町に「こゆ財団」は存在します。地域創生がらみの記事で、最近よく目にする名前です。名前の由来は、新富町が位置する児湯(こゆ)郡からきています。
こゆ財団は、宮崎県新富町が旧観光協会を法人化。2017年4月に設立された新しい会社です。
こゆ財団は、地域のビジョンとして、「世界一チャレンジしやすいまち」を掲げています。
また、自らのミッションとして、10年で100社1,000人の雇用を生み出すこと、強い地域経済を生み出すことを定めています。
ではなぜ旧観光協会を解体し、新しく設立されたのでしょうか?そこには一人の危機感がありました。
現在同財団に出向し執行理事を務める岡本啓二氏は、新富町役場職員でもあるが、地域の活力が失われていく現状を目の当たりにし、行政の事業展開のスピードの遅さに危機感を覚え、町長に直談判。解決策として一般財団法人を作ることに行きつきました。
そのため、地域の人口減少を食い止め、行政ではできなかったスピードで地域経済を活性化することを目標としています。そして、地域の特産品を売ることで稼ぎ、地域の教育に再投資する地域商社を目指しています。
そこから、(1)高速PDCA、(2)顧客視点、(3)まずやってみる、を行動指針としています。
(こゆ財団のロゴ)
(引用:こゆ財団FBページ)
こゆ財団は、強い地域経済の実現のために、核となる取り組みとして、「特産品の商品開発・販売」と「地域の教育」を行っています。
「特産品の商品開発・販売」で注目を集めているのが、一粒1,000円のライチです。
日本国内に流通するライチの99%は外国産で、国産は1%しか存在しません。そして、その主要産地である鹿児島と宮崎の収穫量を合わせても年間10tしか流通していません。ライチは生のままでは傷みやすく、国内に流通するものは殆どが冷凍ものです。
同財団は、新富産のライチに目をつけ、設立後数か月でブランディングを行い、生の果実の販売にこぎつけました。また、ライチを使った商品として、クラフトビール、ケーキ、化粧品、アイス、紅茶などの開発を行っています。
また、「地域の教育」では、起業家の育成に力を入れています。具体的には、起業家育成プログラムの実施や起業家の伴走支援です。
その他にも、地域活性化のためのイベント企画や、空き家の利活用、移住促進事業、プログラミング教育事業を行っています。
(引用:新富ライチHP)
こうしたこゆ財団の取り組みの結果、どのような効果が新富町に及んでいるのでしょうか?
まず、新富町のふるさと納税額は、2016年度は4億3千万円でしたが、財団設立後の2017年度は、2倍以上の9億3千万円に増えています。
また、空き家になり廃れていた商店街に既に3店舗が新規オープンし、更に4店舗が入居予定となっています。
さらに、2018年11月現在において、新富町に14人が移住してきました。
企画した「こゆ朝市」も毎月継続的に行われ、商店街に賑わいを生んでいます。
設立から1年半で大きな効果といえます。
(こゆ朝市の様子)
(引用:こゆ財団資料)
これまでの記事で取り上げた事例でも、地域特産品のブランディングを行い、高付加価値を生み出し、多角的な商品展開を行っているものはありました。例えば、ミガキイチゴのGRAなどが挙げられます。また、起業家を生み出すために、様々な取り組みを行っている事例を見てきました。例えば、コワーキングスペース・スナバが挙げられます。
ですが、「特産品で稼ぐ」ことと「地域に再投資」を同一組織で上手く行っている事業者は少ないです。そのため、このモデルは「新富モデル」と呼ばれ、注目を集めています。
他の起業家を生み出すことで、自らにもメリットが存在します。
まず、地域を盛り上げるための取り組みを行う起業家を生み出すことで、自らの事業とのコラボを図ることができます。
また、出資を行えば成功に応じて利益が得られます。
そして、自らが全ての取り組みを行うよりも、リスクを分散することが出来ます。
(取り組みのイメージ図)
(引用:こゆ財団HP)
まず、今回の事例は、町役場職員の方の危機感から旧観光協会の法人化が進んでいる点が重要です。ただ単に形だけを真似て観光協会を法人化したところで昨今の上手くいっていないDMOの増産と同じことが起こるでしょう。現状の課題を正確に認識し、その危機感の共有がなされることで、関わった人たちの中で取り組みが‘自分事’となり、積極的な関与が期待できます。また、今回の職員の危機感に耳を傾け、きちんと対応に当たった町長の存在も重要です。
次に、新組織にキーパーソンを入れることです。地方は、マーケティングやブランディングといったビジネスの知識が欠けているため、その知識と経験を有する人物が絶対に必要です。
今回の取り組みにおいては、事業展開のスピードがキーポイントとなっていますが、今後社会の変化のスピードが速くなる中で、この点はどの組織でもますます重要になってきます。
こゆ財団について調べながら驚いたことは、その広報力です。その組織はあまり大きくないにも関わらず、また、設立後1年半ほどしか経っていないにもかかわらず、月に数度のプレスリリースを打っています。これは、常に外部の目から見られていること、常に外部に対して情報発信を行うこと、の重要性を理解しているためと考えられます。小さい組織こそ参考にすべきです。
「世界一チャレンジしやすいまち」を実現するために、「チャレンジの失敗」を許す空気が地域にあることも、重要です。どんなにワクワクする取り組みでも、失敗を責め立てられれば誰もチャレンジはしなくなるでしょう。失敗に対する許容度を社会全体で上げていく必要があります。