2019年05月14日更新
「出掛けるのがめんどくさい」「面白いテレビがやっている」、などの理由で自宅に出前を頼んだ経験がある方も多いのではないでしょうか?今回取り上げるテーマは「出前」。しかし、出前にもイノベーションが起こり、これまで出前を行うことが出来なかった飲食店も次々に出前を始めています。自前で出前を行うことが出来ない店舗に出前・フードデリバリーへの参入を可能にする新しい仕組みとはー。
PickUp記事:「ウーバーイーツ、上陸2年強で配達エリアは11都市に 中食需要の拡大がけん引」(食産業新聞社ニュースWEB2018.12.30)
今回取り上げるテーマは「フードデリバリー」。いわゆる「出前」。誰しもがこれまで一度は利用したことがあるでしょう。出前とは、店舗で調理した料理などを希望する顧客の元へ配達することで、日本における起源は江戸時代中頃にまでさかのぼります。そのため、日本は、出前が世界の中でも文化にしっかり根付いている地域と言えるようです。
出前を行う飲食店としては、寿司、丼もの、そば、中華、ピザなどが一般的です。出前を行う店舗としては、一般的な飲食店を営みつつ、顧客の要望に応えて出前に対応する店舗と、出前に専門特化した店舗に分かれます。
これまで出前を行うためには、各店舗において、注文の飲食物を運ぶための移動手段の準備と、それを行う人員の確保が必要となっていました。そのため、出前による売り上げが一定程度見込めない店舗は、出前に対応することが難しいものでした。
一方で、消費者側では、移動時間に使える時間の少なさから、離れた店舗の料理を食べることを断念することも多くありました。
2018年惣菜白書によれば、中食(惣菜)市場の規模は、2017年も8年連続で成長を続け、10兆円を超えました。今後もその成長が続くものとみられています。
このことは、女性の社会進出、少子高齢化、核家族化などの社会変化に伴い、家庭内調理の頻度の低下、または簡易化が進んでいることが背景にあると考えられています。
現在では、コンビニでパックに入った惣菜や冷凍食品が売られることが一般的になっており、共働きの家庭、子供が独立した高齢者、一人暮らしの学生等が多く利用しています。
人気の理由は、少人数の場合、家庭内調理するよりも手間なく安く食事を済ませられる点にあります。
惣菜市場規模推移
(データ出典:2018版惣菜白書)
これまで見た来たような日本の中食需要の高まりに対応し、従来の「出前」導入の課題を解決する形で登場したサービスの1つがUBER EATSです。
UBER EATSは、出前を頼みたいユーザー、売り上げを伸ばしたいレストランパートナー、空いた時間を有効活用したい配達パートナーの需要と供給を上手く組み合わせた仕組みです。
その最大の特徴は、配達員を雇用するのではなく、説明会に参加し登録を済ませた一般人が配達を行うという点です。
これは、これまで活用されてこなかった労働資源の有効活用を実現するものです。
UBER EATS
(引用:NEW YORK POST)
中食需要の高まりの他に、UBER EATSが伸びている要因が2つあります。1つ目は、レストランパートナーが「出前」を導入しやすい点とも関連しますが、これまで「出前」を行ってこなかったお店の料理を注文することができる点です。消費者にとっては、選択肢が増えたことになります。
2つ目は、登録した一般人が配達することへの不安解消にもつながりますが、スマホから簡単に注文することができ、配達情報がGPSによりリアルタイムで把握することができる点です。スマホの高い普及率やGPS機能の発達が可能にしたビジネスといえます。
このような要因により、UBER EATSは、日本全国11都市において4000以上のレストランパートナーを獲得し、その規模をぐんぐん拡大させています。
これまでUBER EATSについて見てきましたが、日本においてその他にも、dデリバリー、出前館、LINEデリマ、楽天デリバリーなどがデリバリーサービスとして最近注目を集めています。
しかし、ほとんどのデリバリーサービスは、注文を行うポータルサイトとしての役割のみで、配達業務について新たな仕組みを生み出しているわけではありません。
そんな中、急成長を見せているのが、出前館です。出前館は、朝日新聞社と提携し、新聞配達員を配達パートナーとして取り込むことに成功。飛躍的成長のきっかけとなりました。その仕組みは、新聞配達員は朝刊と夕刊を配達する時間帯以外は暇で、出前が集中するお昼に時間が空いているため、需要と供給が一致します。
UBER EATSの仕組みでは、配達パートナーや出前注文の確保のため、ある程度大都市でなければ成り立たない仕組みといえますが、出前館の仕組みであれば、大都市でない地方の地域においても、新聞配達店、飲食店、出前需要の3つがあれば、成り立つと考えられます。
シェアリングエコノミーの仕組み
(引用:夢の街創造委員会HP)
このように、様々な企業がデリバリーサービスに参入していますが、生き残るために何が必要となってくるでしょうか。この点、配達時間の短縮などサービスの今後の向上は基本であり、コモディティ化するものと思われるため、その他の点で個性を生み出していく必要があります。
具体的には、消費者が選択するコンテンツ部分に当たるレストランパートナーの数や個性の豊富さを確保することが必要になるでしょう。これは、配達パートナーの確保がキーポイントとなるため、今後も各社工夫を凝らすと考えられます。
また、注文はスマホで行われることが多いため、その利便性の向上は必須です。例えば、LINEデリマのように、毎日使うアプリの中に含まれており注文しやすいという点は大きな差別化ポイントとなるでしょう。
そして、この業界においては、新技術の導入に関する研究も活発です。例えば、ドローンやロボットによる配達の研究がアメリカで盛んに行われています。フードデリバリーに限らず、物流という業界で見れば、自動運転車での配達の研究も行われています。
そのため、柔軟に新技術の導入を行う姿勢が重要になってくるでしょう。
怖い存在はAmazonです。アメリカではAmazon Restaurantsというフードデリバリーサービスを既に提供しているので、今後日本にも参入するでしょう。
ちなみに、出前館と朝日新聞社のシェアリングデリバリーは、メガネスーパーと業務提携し、コンタクトレンズのデリバリーにも参入しています。
結局、配達技術の向上や配達網の構築を達成できたものが、全ての物流を制することになります。
これまで見てきたように、飲食店が出前を導入するハードルは極めて低くなっていますす。そして、フードデリバリーの市場が年10%のスピードで拡大している現状にあっては、その導入は生き残りの為に必須といえるでしょう。
そして、一般消費者は出前をスマホの画面で注文することになるため、画像の写りの良さや他人の評価、値段、料理の説明文、リピートであれば純粋に料理の美味しさだけで判断することになります。立地の良さやお店の雰囲気の良さといったスマホの画面に現れない価値で勝負をしている飲食店は、出前においては勝ち残ることはできないでしょう。
そのため、当然だが料理の美味しさを磨いた上で、見せ方を工夫しなければなりません。インスタ映えした料理を提供したお店が流行っているのはその良い例です。
先日、訪日外国人旅行客が初めて3000万人を突破したことが報道されましたが、この旅行客をいかに取り込むか全国で対策が進んでいます。そして、旅行で地方を訪れる大きな魅力の1つは、やはり「食」です。この食の魅力を上手に外国人旅行客に届けられる仕組みを構築できたものが成功を収めるでしょう。
そこにフードデリバリーの可能性があります。食事ができる施設やお店が近くに無いために、集客に困っている名所や施設も多くあるでしょう。その地域の飲食店が新たな仕組みを使って出前を導入すれば、食事のネックを取り払うことができ、集客に結び付けることが可能となるでしょう。旅行客にとっても、名所や施設の魅力と食の魅力の両方を楽しむことができるようになります。地方のやるべきことは、ネックになるものを1つ1つ取り除き様々な魅力の掛け合わせを築くことです。
この二つの企業の着眼点は、本質的な部分で一致しています。UBER EATSは、これまで活用されてこなかった一般人の労働資源を利用しています。一方で出前館は、新聞配達員の暇な時間を利用しています。すなわち、二つの企業は、無駄になっている資源を見つけ、自分の事業の仕組みの中に組み込んだのです。
そして、昨今しきりに叫ばれるシェアリングエコノミーは、個人が所有することで遊休資源となってしまうものを、社会で共有することで資源を有効活用する仕組みだといえます。
このように、遊休資源や無駄になっているもの、何にも活用されず捨てられてしまっているものの有効活用法を考えることが、大事な視点となるでしょう。
あなたの周りにも遊休資源となっているものはないでしょうか。