2019年08月26日更新
かつて「ジャパン・アズ・ナンバー1」と呼ばれた日本のものづくり。社会的、経済的構造の変化から、製造業は厳しい状況に置かれています。高い技術力をから生み出される質の高い「メイド・イン・ジャパン」の製品を多く世の中に残すための取り組みが増えてきました。今回取り上げるのは、GAIKENという会社のSpecial Local Gift。ものづくりと地方創生の関連性とは。そして、今後ものづくりが力を入れるべき点とは―。
PickUp記事:「 「ギフト×地方創生×ものづくり」優れた技術を持つ地方の工場・製造業と協力し、上質な「メイド・イン・ジャパン」を手頃な価格帯で」(PRTIMES2019.05.30)
日本のものづくりは、かつて「ジャパン・アズ・ナンバー1」と言われ、世界を席巻するほどの競争力を有し、日本を貿易立国として成り立たせていました。文字通り、日本の基幹産業として存在感を示していました。
しかし、就業構造の変化、新興国の工業化の進展等による競争環境の変化、その他経済の多様かつ構造的な変化による影響を受け、工場の海外移転などが進み、国内ものづくり産業の空洞化が起こり、国内総生産に占める製造業の割合が低下してきています。さらに、国内の少子高齢化等により、ものづくり産業の人材確保が困難になってきており、高度な技術力の継承が行われず技術が消滅する懸念も存在しています。これは、日本にとって大変な損失です。
これらの根本原因は、高度な技術力を活かした高付加価値なものづくりを行うことが出来ていないことではないでしょうか。日本の高い技術力が不可欠な顧客吸引力のある商品を生み出し自ら販売を行えれば、国内の製造業は活気づくはずです。そうすれば、おのずと製造業の利益は増え、少子化の中でも若者が高収入を狙って就職するものと考えられるため、人材確保に苦労はしないでしょう。
前述のような課題を抱える日本の製造業企業が倒産・廃業する様子を間近で目の当たりにし、日本のものづくりの未来に危機感を抱き、活動を始めたのが今回の取り組みです。
今回の取り組みのSpecial Local Giftとは、『全国にちらばる、日本の優れた作り手』をテーマに、株式会社GAIKENが全国各地にちらばる製造業・職人・農家の方々のもとへ実際に訪問し、優れた工場や優れた商品を一つ一つ発見し、ギフトとしてご提供するサービスで、ギフトを通して、商品だけでなくその企業について、企業を取り巻く環境にも関心を持っていただけるような、地域活性化、中小企業の活性化を目指しているとのことです。実際に、「いろどり会」といったもので消費者と作り手の交流の場も設けています。
この取り組みは、多数の地域商品の中から価値のある商品を掘り出し、広報力のない企業に代わり商品のコーディネートや情報発信を行うものと言えます。この取り組みにより、商品の認知や需要が増えることで、企業の売上増加に繋がれば、企業の経営安定化に資することになります。また、作り手の想いやその地域の魅力も伝えることで、企業及び地域のファンを増やすことにもなります。商品を通して関係性の構築を行う点で、地方創生の観点からも有効な取り組みと言えます。
Special Local Gift
(引用:A-Port)
GAIKENの取組概念図
(引用:A-Port)
質の高い「メイド・イン・ジャパン」の製品を残そうとしている取り組みには、実は先例が存在します。それは、アパレル業界の「Factelier」(ファクトリエ)です。
アパレルの製造業も厳しい環境にさらされており、統計を見ると国内生産比率は、1990年の50.1%から2014年には3.0%に大幅に低下しています。そんな中、ファクトリエは、メイドインジャパンの工場直結ファッションブランドで、国内600以上の工場へ直接足を運び、世界の一流ブランドから生産を依頼されるような高い技術、誇り、独自のこだわりを持っていると判断した工場のみと直接提携を行っています。そして、中間業者を介さず工場と消費者を直接結ぶことで、工場独自のこだわりを詰め込んだ高品質な商品を、“適正価格”で消費者に提供しています。
この仕組みにより、製造業者は適正利益を確保することができ、事業の継続性を高めることが出来ています。
このファクトリエが今回の取り組みの先を行っている点は、商品製造以外の、企画、マーケティング、ブランディング、販売などを一貫して行っている点です。これにより、消費者から吸い上げられた評価や意見がファクトリエを通じて製造業者にも伝えられます。このことは、今まで下請として製造を行っていた企業の企画力などを高めることに繋がり、高付加価値な独自商品開発も行えるようになります。つまり、製造企業が大きく利益を取れるようになり、ものづくりの継続性・発展性が見込めることになります。地域の一企業が活性化することは、その他の企業にも刺激を与え、地域内でのノウハウの共有というものが行われることにもなります。好循環が生まれるため、その影響は広く地域に及ぶことになります。
アパレルの国内生産比率
(引用:ファクトリエHP)
生産・販売行程概念図
(引用:ファクトリエHP)
日本人が商品やビジネスについて根拠なく信じているものに、「良いものが売れる」というものがあります。しかし、この信念は間違っていると言わざるを得ません
質が良い商品であっても、消費者に商品の存在が認知されなければ、商品は存在しないものと同じであり、また、いくら質が良くても価格が高ければ、消費者にコストパフォーマンスの観点から比較され、他の商品が選ばれることもあります。
つまり、日本のものづくりに足りず、今回取り上げたGAIKENとファクトリエが有している力は、企画力・情報発信力・販売力です。
情報発信力や販売力を高めることは、IT技術の発展により費用をかけることなく簡単に行える環境になりました。職人気質のものづくりの業界においては、IT技術の導入が進みづらいのも理解できますが、新しい技術を受け入れることが企業を発展に導くことになります。
また、企画力は、消費者のフィードバックを得て自ら高めていくか、今回の事例のように企画力のある企業と手を組む必要があります。しかし、企画力のある企業と手を組むと言っても、ただの下請け企業になってしまっては、これまでのものづくり産業と違いがなくなってしまいます。商品に対する評価・意見を得る仕組みを構築し、徐々に企画力を高める努力を怠ってはなりません。
このように、質の良い商品を開発・製造することに力を入れるだけでなく、売る方法の観点からもものづくり企業は努力を行わなければなりません。価値を言語化し情報発信を行うだけで、売れるようになる商品は日本中に数多くあることでしょう。
日本人にとって、ものづくりとは、ただ単にモノを作るということ以上に、人生道を重ね合わせて考えることが多いように思えます。1つ1つ丁寧に作り引退するまで自分の技術を高めていくという点に価値を見出しているのではないでしょうか。
この点に日本のものづくりの高い技術力の源泉があるように思えます。そして、これこそが世界の国のものづくりと一線を画す価値だと思います。
欧米系の訪日外国人観光客が、浅草の道具街に立ち寄り、鍛えられた鋼の包丁をよく買っていくといいます。認知されれば価値が伝わり売れてしまう好例と言えます。
東京オリンピックが来年に差し迫っていますが、世界から訪れる観光客に日本のものづくりの質の高さをアピールする絶好の機会と言えそうです。地方の特産品をアピールし手に取ってもらうことで、商品とその地域を認知してもらえるのではないでしょうか。そして、興味を抱かせ、実際に地方を訪れる外国人観光客の増加につなげていきたいものです。また、その外国人が母国に持ち帰った商品がきっかけとなり、商品の輸出化に漕ぎつける事例もこれからどんどん増えていくのではないでしょうか。
日本のものづくりが世界でもう一度評価される日が来るのが楽しみです。