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新潟 未来の食糧生産モデル!?水産養殖×水耕栽培=アクアポニックス

2019年06月17日更新

 あなたは、アクアポニックスという言葉を耳にしたことがあるでしょうか?SDGsという言葉が多く用いられるようになり、持続可能性というものが社会的に重要度を増している中で、アクアポニックスは、食料自給の持続可能性を高める未来の生産方法と言えるものです。それでは、アクアポニックスの具体的内容・可能性と、課題とはー。

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アクアポニックス=水産養殖×水耕栽培

 アクアポニックス(aquaponics)とは、水産養殖(aquaculture)と水耕栽培(hydroponics)を組み合わせた造語で、魚を養殖しながら同じ水を利用して野菜を栽培する循環型の生産方法のことをいいます。具体的には、魚にエサを与え、そのフンや食べ残しがバクテリアによって野菜が吸収できる栄養素に分解され、野菜が養分を吸収し、綺麗になった水で魚が成長する仕組みとなっています。

 アクアポニックスの言葉自体は1970年代に登場しましたが、その歴史は古く、1000年ほど前のメキシコの原住民が行っていた「チナンパ」という農法が始まりだと言われています。1980年代にはアメリカで商業システムが登場しましたが、日本ではようやく最近始まったばかりだと言えます。

 アクアポニックスの特徴は、(1)コストが安い、(2)生産性が高い、(3)オーガニック、(4)作業負担が軽い、などの利点が挙げられます。

 (1)については、LED型の植物工場と比較して初期投資が4分の1、ランニングコストが10分の1という安さです。中でも、水に関しては、従来の農業と比較し約90%も節水することができ、水が潤沢でない中東の地域で盛んに取り入れられています。

 (2)についても、水耕栽培と比較し2.6倍以上の生産性の高さを誇り、年間5~8毛作を行えるとの結果もあります。この点は、今後の研究次第で更に向上していくでしょう。

 また、魚を同時に養殖しているため、野菜に農薬を使用することができません。もちろん魚に薬品を使用することも野菜に影響があるためできません。必然的に(3)のオーガニックという結果となります。

 そして、土づくり・水やり、魚の水の交換、農薬散布、除草、が不要であるため、(4)の作業負担が軽いといえます。第一次産業の高齢化や担い手不足にとって嬉しい話です。

 チナンパの様子                   アクアポニックス循環の仕組み

 

            (引用:www.milkwood.net)  (引用:アクアポニックス さかな畑)

アクアポニックスの設置・運営方法

実際に運営されているアクアポニックスは、規模や飼育される魚、栽培される野菜など、態様は様々です。

欧米においては、光の用い方の分類として、自然光、遮光ネット、LEDライトの方法があり、設置態様として、屋外、温室ハウス、閉鎖空間の植物工場などがあります。魚の養殖タンクについては、野菜の水耕栽培の下に設置する方法もあれば、横に併設する方法、別ルームなどに設置する方法などがあります。

アクアポニックスは、根菜類の栽培が出来ませんが、葉野菜であれば基本的に何でも栽培することが可能です。また、一部では果菜類を生産する例もあります。

野菜の具体例としては、ハーブ、レタス、トマト、ナス、イチゴなど様々です。

魚の具体例としては、ティラピア、ブルーギル、ナマズなど、環境変化に強い食用淡水魚が用いられることが一般的となっています。

アクアポニックスの実例

(引用:植物工場・農業ビジネスオンライン)

イノベーションが始まった農業・漁業

一般的に農業は、路地やビニールハウス内で栽培が行われることが多く、気候や天候に左右されることが多いです。また、漁業も、海において漁を行うもので、気候や天候、潮の流れ、資源の豊富さに左右されます。さらに、第一次産業は、生産者の高齢化が進み、その作業の過酷さから担い手不足が進んでいます。しかし、技術革新により、自然などの条件に左右されない、労働の軽減化がなされた農業・漁業が実現しようとしています。

その農業の例が、「植物工場」です。これは植物の成長に最適化された水溶液とLEDライトを用い、空調等も完全に管理された閉鎖的工場内部で生産を行う方法です。その先進性は、自然条件などに左右されない生産体制の確立のみならず、農業生産の立体化を実現した点にあります。基本的に農業生産量を増やす為には、生産土地面積を「横」に伸ばす必要がありますが、水耕の植物工場の実現で、生産面積を「縦」に伸ばすことが可能になりました。極端な例を挙げれば、東京のビル内部で野菜を栽培することも技術的に可能になったことを意味します。

また、労働力の軽減化という意味で、現在、ドローンの活用、トラクターの自動運転化などの研究も進められています。

漁業においてもイノベーションが進んでいます。これまで養殖が困難とされていたマグロの養殖が実現されたり、ウナギの養殖の研究も進みつつあります。特筆すべきは「陸上養殖」の技術です。これまで海水魚の養殖は海で行われてきましたが、近年、海のない山間部で行うことが可能となりました。マダイやチョウザメ、アワビ、フグなどの養殖が実際に行われています。近年、世界的な健康志向の高まりや日本食ブームにより、魚の消費量が大幅に増えている中で、天候などに左右されない計画的な魚の生産が可能になることは、安定供給に資することになります。

植物工場                    大型水槽を泳ぐサクラマス

(引用:WIRED)              (引用:みなと新聞)

アクアポニックスの課題

このように、農業・漁業においてイノベーションが進んでおり、アクアポニックスもその一例だが、課題も存在します。

まず、何と言っても認知度が低いことが挙げられます。このことにより、アクアポニックスの普及がなかなか進みづらい現状にあります。メディアの活用などにより認知度を上げなければなりません。

次に、アクアポニックスの日本における実施事例が少なくデータがまだまだ少ない点が挙げられます。生産性向上のためには、最適な野菜と魚の組合せなどのデータが不可欠です。欧米における実施事例は多く存在するものの、データや資料は英語で書かれたものが多く参照しにくくなっています。また、日本の気候や野菜・魚の種類が異なるため、そもそも参照にならない部分も存在します。良いデータが溜まるように、多くの実施者を増やさなければなりません。

アクアポニックスの利点は、前述の通りオーガニックであることですが、ここが弱点にもなり得ます。すなわち、万が一野菜や魚に病気が発生しても薬品を使用することができません。そのため、病気を未然に防ぐ生産体制や保険への加入が必須になることでしょう。

日本の冬の寒さも課題です。アクアポニックスが行われている地域は温暖であることが多いですが、日本において年間を通して野菜を生産するためには、冬季をどう運営するか考慮が必要です。

先の話にはなりますが、生産物のコモディティ化の恐れも存在します。アクアポニックスで生産された野菜や魚は、生産体制が同じならば同じ品質のものとなってしまうため、差別化がしにくくなってしまいます。そのため、工夫が必要となります。

日本における成功の可能性

前段で課題を挙げましたが、工夫次第でアクアポニックスには大きな可能性があります。

日本の寒さを課題として挙げましたが、この点、日本は温泉大国です。日本全国に温泉が存在します。温泉から出される余剰熱を上手く活用することが出来れば、冬季の野菜の生産性を向上することができるでしょう。また、その熱やミネラル豊富な水を利用することで、魚も早く大きく生産することが可能となるはずです。そのためにも、研究の推進とデータの蓄積が必要となってきます。

また、生産物のコモディティ化の恐れに関しても、魚に与えるエサに特色を持たせることで差別化が可能です。その特色を持たせるエサが、地域の特産物であるなどすれば、なおコモディティ化に陥りにくくなります。愛媛で生産されている「みかんブリ」がその好例でしょう。

様々な課題はあるものの、コストの安さやオーガニックであることは、アクアポニックスの大きな利点であり魅力です。アメリカの事例ですが、1,700万円の投資費用を約4年で回収した事業者も存在します。

最も行わなければいけないことは、やはり認知度の向上です。認知度が向上することで取り組む事業者が増え、生産量も拡大します。そして、アクアポニックスで生産された野菜や魚に対して、認証を与えブランド価値を付与する必要があります。そうすることで価値が高まることに繋がり、販路開拓にもなります。アメリカにおいては、アクアポニックスの認証が与えられた野菜がスーパーなど一般に流通しており、大手にも取り扱われ始めています。

昨今、SDGsという言葉が広く認知されるようになってきています。これは、「持続可能な開発目標」というもので、国連で定められ国際目標となっています。

この点、農業においては、農薬による土壌汚染、漁業においては、前述の通り世界的な需要の高まりにより無計画・無秩序な乱獲が推し進められ、水産資源の枯渇が大きな問題となっており、農業・漁業の持続可能性が危ぶまれています。このことは、食文化の破壊のみならず、食糧危機を招きかねず、引いては、国同士の対立に発展しかねない重大問題です。

その観点からも、「循環型社会」を実現すべく、自然に負担を掛けない食糧生産方法である野菜のオーガニック栽培や魚の養殖は、重要なもので発展させなくてはなりません。

その1つの手段として、アクアポニックスが今後ますます注目されることでしょう。