2019年07月15日更新
昔は賑わいがあったのに、老朽化したため全く利用されていないー。そんな公共施設があなたのお住まいの近くにも存在するのではないでしょうか?財政の厳しさにより、維持管理が行き届かない地方公共団体も多く存在します。今回取り上げる取り組みは、行政の負担を減らし民間の力を活用することで地域を活性化していく手法・スキームに関するものです。民間の活用と言えば、「第三セクター」が以前流行しましたが、「第三セクター」に代わる行政注目の手法とはー。
PickUp記事:「<榴岡公園>飲食店やジム入居施設建設へ 宮城県内初のパークPFI事業者決定」(河北新報2018.10.31)
行政の効率性や公共サービスの質の向上が求められる中、その手段として、これまでは第三セクターという形で官民連携が多く行われてきました。
第三セクターとは、国または地方公共団体と民間の共同出資により設立された法人のことをいいます。
半官半民で、それぞれの良いところを取り入れて事業を運営することが期待されました。
ですが、第三セクターは、行政が出資しているがゆえに地元合意と制度制約に縛られマーケットを無視した施策が行われやすく、その施策に対する責任の所在も不明確になりがち。そのうえ、損失は行政が補填することも多く見られ、商業的経営努力が図られない構図となっており、失敗事例が後を絶ちません。
失敗事例として有名な商業施設「アウガ」
(引用:アウガFBページ)
第三セクターによる後を絶たない事業の失敗により、官民連携の新たなスキームとして、昨今、PFI( Private Finance Initiative )という手法が注目され始めています。
PFIとは、公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に、従来のように公共が直接施設を整備せずに民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法のことをいいます。事業方式としては、BTO方式(施設を建てた時点でその所有権を行政に移転し管理・運営する方式)、BOT方式(施設を建て管理運営し事業終了時点で所有権を行政に移転する方式)BOO方式(施設の所有権は民間に残したまま管理運営する方式)、RO方式(施設を改修し管理運営する方式)があります。事業類型としては、サービス購入型(行政が事業者に料金を支払い、事業者が利用者にサービスを提供する類型)、独立採算型(利用者が事業者に料金を支払い、事業者が利用者にサービスを提供する類型)、ミックス型(サービス購入型と独立採算型の併用)が存在します。
この制度のメリットは、事業のリスクを民間に移転することで行政の負担を軽減できる点、リスクを負った民間が責任を持って事業を運営することでコスト削減、サービスの向上が図られる点、これまで有効活用されてこなかった公共施設の活用を促進することで新たな価値が生み出される点が挙げられます。
この他にも、官民連携の新たなスキームとして、指定管理者制度(それまで行政に限定していた公の施設の管理・運営を、株式会社をはじめとした営利企業・財団法人・NPO法人・市民グループなど法人その他の団体に包括的に代行させることができる制度)が挙げられます。
ですが、どの手法も事業に合う合わないが存在し、また、手法を活かした事業の具体化こそが一番重要であり、世間が第三セクターに求めたような「魔法の薬」は存在しないということを、改めて苦言を呈さなければなりません。
そんな中、PFIの手法を用いて公園を再整備するのが今回取り上げた事例です。方式としてはBTO方式を採用し、事業類型としては独立採算型を採るものと考えられます。
BTO方式–独立採算型は、民間事業者が投資のリスクを大きく負うため、サービス提供や運営に対して真摯な努力がなされることが期待されます。
そして、これまで季節の催し物以外は特段活用されてこなかった公園に新たな価値を生み出し、その地域のにぎわいや人の交流が生み出されることが期待されます。
榴岡公園
(引用:せんだい旅日和)
公園の管理について、民間の力を活用した先進的事例がある。兵庫県立有馬富士公園です。
この公園は、行政が園内すべての場所やプログラムを管理・運営するのではなく、市民活動を公園の管理・運営へとリンクさせる手法を展開。市民団体が様々な遊びのプログラムを企画・運営しており、利用者数が非常に多いです。
これまでの公園は、形のデザインに主眼が置かれていましたが、今後は、賑わいをいかに生み出すか、人と人のコミュニケーションをいかに活発にさせるか、というコミュニティデザインの視点が欠かせません。
そして、この事例のように、市民を巻き込み、市民自ら公園の管理・運営に参加させることによって、当事者意識が生まれ、積極的な運営が期待されます。
有馬富士公園
今回取り上げたPFIという手法について、国もその活用を積極的に後押ししています。国は、平成30年6月15日に、経済財政運営と改革の基本方針2018と、未来投資戦略2018を閣議決定し、PFIの積極的な活用を重点的に推進していく方針です。
その背景には、日本の人口減少、地方の過疎化、公共施設の老朽化があります。
日本の人口が減少し、地方が過疎化していくことによって、老朽化した公共施設の再建築や改修が財政的に困難な地方公共団体が存在します。そこで、PFIの手法を用いることによって、民間の資金を活用することで、行政の金銭負担を軽減することができるためです。
思うに、これからの地方創生は、行政の効率化が必須です。
少子高齢化により、行政サービスを提供する人手不足も今後深刻になり、上述の通り財政的にもひっ迫する地方公共団体も増えるため、民間にできることは民間が行うことが避けられなくなるでしょう。 これは一見危機のように見えます。
しかし、これはチャンスです。これまで幾度となく行政サービスの非効率性が叫ばれてきましたが、なかなか改善されてきませんでした。ですが、今後否応なく効率化が行政に迫られます。
また、民間ができることを行政が行っていた故に、生み出されるべき価値が減少していた嫌いがありましたが、今後は民間に権限を委譲することで価値の創造が行われるようになります。
行政においても、業務の軽減、組織のスリム化が図られることで、無駄な歳出のカットを達成でき、行われるべき施策に資金を配分することができます。
そのうえで、いかに公共サービスを継続していくか、いかに地方公共団体の存続性を確保するか、といった重要な課題に集中して取り組むことができるようになります。
その意味で、行政の効率化が図られなければ、本質的な地方創生は叶わないでしょう。
これまで見てきたように、新しい手法による官民連携の必要性は今後確実に高まってきます。
では、成功させるポイントは何でしょうか?
大事な視点は、民間でできることは民間で行わせること、行政と民間事業者の間でリスクとメリットの分散を上手く図ることです。リスクを負うところに権限と責任を持たせ、事業が成功した際に利益・メリットをきちんと享受させる仕組みが重要です。この仕組みの構図を上手く組み立てられなければ、事業は破綻するでしょう。
そして、現時点で、PFIや指定管理者制度のノウハウについて、地方公共団体間で情報共有が積極的になされているとは言えません。少しずつ日本での事例も増えてきたことから、きちんとノウハウ共有が進むことが課題です。
また、PFIや指定管理者制度は、行政と民間事業者との間で癒着が生じやすいです。それを防ぐためには、定期的に事業の評価を第三者機関が行うなどの工夫が必要です。
結局のところ、適度な緊張関係を保つことが事業を成功させるポイントと言えるでしょう。