2019年03月26日更新
平成21年度から始まった「地域おこし協力隊」。皆さんのお住まいの地域でもその活動を見かけることが増えているのではないでしょうか?制度として定着しつつある一方、上手くいっている地域と活用しきれていない地域との差がはっきりしてきています。今回取り上げるのは島根県松江市の事例です。島根県は、地域おこし協力隊受入数全国第3位の実績。全国各地で苦しむ鳥獣被害に、地域おこし協力隊がその解決に乗り出した取り組みです。地域おこし協力隊の力を引き出すための秘訣とはー。
PickUp記事:「松江・地域おこし協力隊の2人考案 イノシシ肉ソーセージ好評」(山陰中央新報社 2018.07.18)
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を移動し、生活の拠点を移した者を、地方公共団体が「地域おこし協力隊員」として委嘱する制度。隊員は、最長3年間地域に居住して、「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。
平成21年度から始まった取り組みで、平成29年度は997自治体が4976人を受け入れました。政府は平成36年度に隊員数を8000人に増やす目標を掲げています。隊員の約4割が女性、約7割が20代・30代、任期終了後約6割が同じ地域に定住、定住した元隊員の約3割が起業しています。
(制度概要調査)
(出典:総務省H29年度調査資料)
隊員の具体的活動は、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこしの支援や、農林水産業への従事、住民の生活支援などを行います。
成功事例として、北海道弟子屈町の地場産ワインの醸造、岡山県美作市の棚田の再生、新潟県十日町市の体験アクティビティの開発などが挙げられます。
一方で、この制度を活用する目的や戦略が不明確なまま隊員を受け入れる事例も存在します。
隊員を国のお金で雇える臨時職員と考える自治体があり、地域おこしとは無関係な雑務を行わせたり、前例の無いことはやらせないという束縛、自分たちでやりたいことを見つけて勝手にやってという放置、行政・地域・隊員の需要と供給のズレの問題が存在します。自由度が高い制度だけに、地方自治体の運用力が試されています。
そんな中で、新しい取り組みも行われています。地域おこし協力隊×クラウドファンディング×ふるさと納税がそれです。地域おこし協力隊がプロジェクトを企画し、クラウドファンディングで資金を募り、出資した金額はふるさと納税として取り扱われる取り組みです。お金を募る方も出す方も利用しやすい仕組みなので、今後の動きに是非注目したいですね。
(検索ニーズ調査)
独自調査(出典:Googleトレンド)
今回取り上げた松江市が所在する島根県の人口は約68万人で、鳥取県に次ぎ全国で2番目に少なく静岡市の人口よりも少ないです。松江市は、急速に人口減少が進行している地域が数多くみられ、それらの地域の中には、人材の不足、アイディアの不足、販路の不足などにより、地域資源が有効に活用しきれていない実態が存在します。
松江市は、県庁所在地としてのリーダーシップを発揮し、人口のダム機能を高める必要があると考え、UIターン支援策の新たな一手として、“人材を求める地域”と“地域の元気をもらい活躍をしたいと考える人”のマッチングを行い、フォローを市全体のプロジェクトとして実行していくことを決め、積極的に地域おこし協力隊の受け入れを行っています。
島根県全体の地域おこし協力隊の受入数は、北海道、長野県に次ぎ全国3位の多さとなっています。受け入れノウハウや実績が蓄積されつつある地域と考えられ、今後是非参考にしたい地域です。
(引用:八百万マーケットHP)
今回取り上げた事例は、松江の地域おこし協力隊がイノシシ肉ソーセージを開発したものだが、社会に対して3つの意味で大きな効果があります。
まず第一に、松江に限らず、日本全国で問題となっている鳥獣被害に対して真正面から取り組み、ジビエ加工食品の開発という新しい解決策を提示していることです。
ジビエ加工食品が人気商品となり売り上げがあがれば、鳥獣駆除を行う狩猟者の確保にも繋がり、鳥獣被害の減少が見込めます。
第二に、これまでお金を生まないどころか農作物の損害を出してきた鳥獣を、ジビエ加工食品として製造・販売する事業が立ち上がることで、お金と雇用を地域に生み出すことになります。実際、都市部からの移住の最大のネックは仕事の不足であるため、この意味は大きいですね。
最後に、地域おこし協力隊は任期が最大で3年だが、隊員の任期終了後の仕事は保証されていません。プロジェクトが推進し任期内に隊員の事業の道筋がつけられたということは、隊員の定住化を促進することになります。
小さな「いのししフランク」にはこれほどの大きな効果が期待できます。
(引用:Google Map)
今回の事例の鳥獣被害問題は、日本全国に存在する大きな社会問題です。同じ悩みを抱える他地域でも大いに参考にできる好事例と言えます。
まず、隊員は地域住民と関わり、鳥獣被害という社会問題に目をつけ、ジビエ加工食品の商品化を思いつきます。試行錯誤を重ね、季節ごとに風味を変える工夫を行い、その際にも地域食材の活用に気を配っています。販売展開においては、地域アンテナショップを活用しており、自治体に有るモノを有効活用しています。また隊員自ら狩猟免許を取得している点にも着目したいですね。
他地域においては、隊員の新しい提案について、「前例に無い」といって受け入れない自治体も存在します。信じられないことに、隊員と地域住民との交流を制限する自治体すら存在します。その意味で、今回の事例では、外部からやってきた隊員の新しい提案を自治体が素直に受け入れて支援している点は、重要なポイントです。
隊員の活動に対して、ヨソモノとして扱い、理解を示さない地域も存在します。隊員はその地域の課題解決のために任命されているにもかかわらず、現状を変える意欲のない地域も少なくありません。今回の事例では、イノシシ被害に困っている農家、後継者不足に悩む猟友会、イノシシ肉の普及を願う生産組合の思惑が一致し、上手くいった事例です。
結局のところ、地域おこし協力隊が成功するためには、隊員の能力×行政の力×地域の力が揃わなければなりません。この制度が単なるバラマキと批判されて終わるものにせず、効果が十分に発揮されるためにも、課題とそれぞれの役割を明確にし、変革に対する柔軟性を持つことが必要となります。