2021年12月28日更新
東洋製罐グループホールディングス株式会社は、11月9日の決算説明会で、SDGsの目標達成への貢献を見込みつつ、リサイクル面で優れた素材のアルミニウムを使用した飲料用カップの販売について、発表しました。
同社は、アルミカップの最適な利用シーンとして、スタジアムやイベント会場、カフェ、アウトドアなどを挙げて、例えば、スタジアムで購入した飲料をもう一杯買う際には、使い捨てることなく、同じカップを再利用できるとして、環境負荷を低減し、SDGsに貢献できる容器である点をアピールしています。
また、最新のデジタル印刷技術によるカップデザインのカスタマイズが可能であることから、オリジナルのアルミカップが提供できるとして、すでに客先へ提案しているそうです。
実際に、同社によると、「提案先のイベント運営会社やスタジアムの方からすでに非常にご好評をいただいている」とのことで、自社アルミカップの販売に手応えを感じている様子が見られます。
アルミニウムに限らず、スチールなどの金属やプラスチック、紙、ガラスなど、さまざまな素材から、多彩な容器包装を製造している同社は、世界有数の総合容器メーカーです。
自社のアルミカップの導入によって、海洋汚染の原因であるプラスチックではなく、より環境負荷の少ないアルミニウムへと素材が切り替わることで、プラスチックごみの削減など、SDGs達成に役立つ効果が期待できると見込んでいます。
PuckUp記事:脱プラへ前進 スタジアムやイベントで使える飲料用アルミカップ登場 印刷技術でもアピール 東洋製罐GHD(食品新聞2021.11.22)
(引用:TOKYO PACK 2021 展示内容特設サイト-東洋製罐グループより)
地球環境への配慮から、近年、使い捨てではなく繰り返し使用できる商品を優先的に選択する意識が高まっているように思います。
さらに、プラスチックごみによる海洋汚染の深刻化を背景に、コンビニエンスストアなどのレジ袋が有料化された結果、7割近くの人々が、店舗でレジ袋を辞退するようになっています。また、5割以上の人々は、常時エコバックを持ち歩いているなど、環境負荷を減らす習慣が広まりつつあります。(参考資料:環境省「令和2年11月レジ袋使用状況に関するWEB調査」http://plastics-smart.env.go.jp/rejibukuro-challenge/pdf/20201207-report.pdf)
加えて、これまでは、スタジアムやイベント会場で頻繁に使われていたプラスチックカップですが、昨今では、海洋汚染の原因となるマイクロプラスチックを生み出すとして、使用を避ける向きが強くなっています。
事実、海洋汚染を防いでSDGsにも貢献しようとする「脱プラスチック」を目的に、大手ファーストフード店などは、紙などの別素材を使用した飲料カップやストローへの切り替えを推し進めており、その影響で、消費者もまた、繰り返し洗って使えるアルミやステンレス、チタン、シリコン製など、プラスチック以外のストローを利用するようになり始めています。
以上から、今回のアルミカップの販売は、このような時代の流れと合致する可能性が高いでしょう。事実、同社では、次のような理由もあって、アルミカップの需要は見込めると考えているようです。
・マイクロプラスチックによる海洋汚染は世界的に問題視されており、原因であるプラスチック製品から代替品へ切り替える動きが加速している
→プラスチック以外のリサイクル可能な素材、特にアルミニウムは商機が見込める。
・アルミニウムは「リサイクルできる」と認識されている素材であり、環境に優しい素材を求める昨今のニーズとマッチしている
確かに、「使い捨て」プラスチックカップから、「繰り返し使う」アルミカップへ切り替える行為は、エコバック同様、人々に広く受け入れられていく可能性がありそうです。
しかも、プラスチックカップからアルミカップへの切り替えは、ただ使い捨てをやめてゴミを削減するだけでなく、次のようなメリットをもたらす可能性もあります。
・プラスチックよりもリサイクルしやすいアルミニウムを使用するため、リサイクル率が上がり、より資源を節約できる
・プラスチックの消費を減らせるため、マイクロプラスチックで引き起こされる海洋汚染の防止につながる
このように、繰り返し使えるアルミカップの提供は、ごみの削減とリサイクル効率の向上、2つの観点から、SDGsに貢献可能な提案であることがうかがえるのです。
ただ、今回のようなプラスチックカップからアルミカップへの切り替えについて、他の地域での実施は可能なのでしょうか。
同社の関連会社は、日本だけでなく海外にも存在しています。そのネットワークは広大で、もし日本全国に向けて製品を輸送する必要があったとしても、アルミニウム製品は軽いため、トラックなどの輸送コストは、他の金属製品より少なくて済みます。また、プラスチックや紙よりも丈夫なので、長距離輸送にともなう破損のリスクは、比べて高くないことが予想されます。
同社が、日本全国のスタジアムやイベント会場などに飲料用アルミカップを供給できる可能性は、十分あるでしょう。
実は、今回の取り組み以前に、豊田通商株式会社とユニバーサル製缶株式会社の協働によって、環境配慮型アルミカップを供給する試みが行われています。(参考資料:https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/210812_004879.html)
この試みでは、スタジアムで使用する使い捨てプラスチックカップを、使い捨てアルミカップに変更のうえ、使用済みカップの回収から再生工場への持ち込み、そして再度アルミカップへ製造し直す、一連のリサイクル・フローを構築しており、「水平リサイクル」に取り組むことで、SDGsに貢献しています。
つまり、アルミカップの供給のみにとどまらず、「水平リサイクル」(使用済みの製品を回収・資源化のうえ、再度同じ製品を製造する)のための循環そのものを構築しており、場合によっては、カップの回収から再生工場への運搬など、地域を超えた輸送が必要になる可能性もあるでしょう。
とは言え、どちらの取り組みも、半永久的にリサイクル可能なアルミニウムの特徴を利用した、ユニークなものと言えます。地理的状況などに合わせて、2つの取り組みをうまく組み合わせるなど、工夫することで、いろいろな地域でSDGs貢献に役立つことも期待できそうです。