2019年08月05日更新
好きな人は日に何度も飲むコーヒー。その産地は、コーヒーベルトと呼ばれる南北緯度25度の中に所在する国々が有名です。エチオピアやグアテマラ、ブルーマウンテンなどの名前を聞いたことある方も多いでしょう。驚くことに、今回取り上げる取り組みでは、沖縄でそのコーヒーの栽培を始めようというのです。その取り組みは、サッカー元日本代表の高原が代表を務めるサッカークラブ沖縄SVが中心となり、ネスレ日本がCSV活動の一環として参画するとのこと。企業がこういった形で取り組みを行う意義とはー。
PickUp記事:「国産コーヒーの大規模栽培、沖縄で展開へ 名護市に1万杯分の苗植え、来年は40万杯分を計画/沖縄SV・ネスレ日本」(食品産業新聞社ニュースWeb2019.04.26)
首里城 沖縄の地図
(引用:沖縄物語HP)
沖縄県は、面積が2,281㎢と香川県、大阪府、東京都に次いで小さく、人口は約145万人です。ほぼ全域が亜熱帯気候で、一部は熱帯に属します。年間を通して温暖な気候なため、日本国内ではリゾート地として認識されています。2015年の国勢調査においては、2010年と比較し人口が2.9%増加し、全国1の増加率となりました。
その一方で、沖縄の平均年収は333万円で国内ワースト1となっており、全国平均469万円と大きな差があります。産業は、観光を中心としたサービス業が中心で、他に目立った産業が存在せず、所在する米軍基地の生み出す経済に依存しているとの声も聞かれます。
そんな中、沖縄の経済を活発化させるために、観光面では、県内や企業においてIR構想やテーマパークの新設などが検討されています。
このように、沖縄では、経済を活発化し県民所得の向上を図ることが大きな課題となっています。
次に、コーヒーに目を向けると、世界中とりわけ中国を中心としたアジアで需要が伸び続けています。これは、新興国の所得の向上による生活スタイルの変化に伴うものです。
一方で、その需要に対応する供給側では、コーヒー豆の収穫量が減少している地域も存在します。
その原因は何でしょうか?
それは、昨今の気候変動により、既存の供給地域の気候がコーヒーの生育に適さない環境になりつつあることです。コーヒーは、生育が非常に難しい植物で、栽培には雨、日当たり、温度、土質の条件が揃うことが必要とされています。
まず、雨に関しては、年間1800mm~2500mmで、成長期に雨が多く収獲期に乾燥する雨季と乾季が必要です。次に、日光を好むにもかかわらず、強すぎてはいけません。そして、温度は、年平均20℃くらいで、夏の避暑地のような過ごしやすい土地である必要があります。さらに、土質は肥沃で、水はけが良く、少し酸性の方が好ましいです。
気候変動により、気温の変化や雨季・乾季のズレが生じ、コーヒーの生育に影響しているのです。
このまま人口が増え続けているアジア地域の需要が伸び続け、気候変動による供給の落ち込みが大きくなれば、価格の高騰や供給不足の事態にもなりかねません。
沖縄SVコーヒーファームと植樹の様子
(引用:PRTIMES)
これまで見た通り、沖縄とコーヒーが大きな課題を抱える中、サッカークラブ沖縄SVの代表取締役を務めるサッカー元日本代表の高原直泰氏が立ち上がりました。沖縄SVを中心に、ネスレ日本、沖縄県名護市、琉球大学が連携し、大規模な国産コーヒーの栽培を目指す「沖縄コーヒープロジェクト」を立ち上げました。具体的には、沖縄県名護市が耕作放棄地を提供し、ネスレ日本が沖縄に適した苗木の提供や栽培に必要な技術支援を行い、琉球大学が科学的知見を提供し、農作業などを沖縄SVが行います。
企業のこういった取り組みは、CSV活動と呼ばれ、日本においても徐々に広がりつつあります。 CSVとは、「Creating Shared Value:共有価値の創造」のことを言い、営利企業が本業に関わりのある方法で社会課題の解決に対応し、経済的価値と社会的価値を同時に創造しようとするものです。
この事例で見れば、コーヒーを栽培することで、沖縄の一次産業における担い手不足という課題解決の一助となり、観光以外目立った産業の無い沖縄の特産品を生み出す取り組みと言えます。そして、コーヒー栽培が本格化すれば、コーヒー豆の摘み取り・加工の体験など観光コンテンツにもなり得、地域に落ちるお金も増えるようになるでしょう。さらにもっと大きな視点で見れば、コーヒーの輸入の為に海外に流出していた資金が国内で循環することにもなります。そういった意味で、非常に大きい社会的価値の創造につながるものです。
ネスレ日本においては、沖縄県産コーヒー豆の仕入れに繋がる本業に関連した取り組みと言えます。そして、この取り組みはサッカークラブの本業には関連しないようにも思えますが、地域社会に深く関わることで沖縄SVの認知度が上昇し、応援してくれるファンの増加にも繋がる取り組みと言えます。
味の素AGFの取り組み ポッカサッポロの取り組み
(引用:食品産業新聞社ニュースWEB)
今回取り上げた取り組み以外にも、広島県でレモンの栽培を支援するポッカサッポロの取り組み、鹿児島県徳之島でコーヒー栽培の支援を行う味の素の取り組み、以前当サイトで取り上げた遠野キリンプロジェクトの取り組みなどが存在し、企業のCSV活動が活発になってきています。
そして、現状でよく見られるCSV活動としては、メーカーが本業で使用する原材料の生産の支援を行うというかたちのものです。このかたちの利点としては、メーカーとしては、原材料の安定的な仕入れが可能になることや原材料のブランディングに参画し取り組むことが出来る点です。原材料の生産者側からすれば、生産品の安定的な買取を行ってもらえ、一次産業全般に言える担い手不足・後継者不足の対策になりえます。地域社会側とすれば、産業が一つ生まれることで新規参入者が現れたり、六次産業化・観光コンテンツ化の取り組みも始まることも考えられ、地域の活性化に結び付くものと言えます。
このように、このかたちのCSV活動は、企業、支援先、地域社会にとって、三方良しの取り組みとなり得ます。
それでは、その成功の秘訣は何でしょうか?
それは、参加する各プレーヤーがワクワクする取り組みであることが何よりも重要です。ワクワクする取り組みとは、類型として、社会・地域にそれまで存在しなかったものを生み出す取り組みや、一度消滅してしまったものの再興に取り組む取り組みなどが挙げられます。ワクワクする取り組みであることで、多くの人を惹きつけ、取り組みに対する支援の確保も行いやすくなります。今回の取り組みでは、クラウドファンディングも行い、目標の3倍の資金を集めることに成功しています。
また、地域ときちんと連携を行うことが必要です。企業がCSV活動と言って自分たちのやり方を一方的に押し付け地域課題を解決したとしても、本質的な意味での課題解決にはならないでしょう。連携を行う上でも重要なステップは、取り組みの実施段階からではなく、地域課題の共有の段階から地域を巻き込むことです。
ともあれ、このかたちのCSV活動は、地域に対し大きな広がりを生む取り組みであると言え、今後も日本全国において増えていくでしょう。地域のブランディングといった意味でも今後取り組みが進んでいきそうです。