2019年06月17日更新
いまエネルギーは、大きな過渡期を迎えています。再生可能エネルギー導入が進む一方で、エネルギー供給体制も変化が進み始めています。今回取り上げる取り組みは、地域で生み出したエネルギーを地域で消費するという取り組みです。食品の地産地消はよく耳にしますが、果たしてエネルギーの地産地消の効果とはー。
PickUp記事:「鹿角市、7月に新電力会社設立へ 再エネ「地産地消」を推進」(秋田魁日報2019.03.01)
日本において、これほど大きく再生可能エネルギーの活用が叫ばれるようになったきっかけは、やはり、2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故です。
事故が起こるまでは、原子力発電は、低廉・安定・環境にも優しいと謳われ、国策として普及が進められてきました。しかし、事故により、周辺地域の居住が困難となり、事故被害への対応で巨額の費用がかかることが露呈され、決して低廉で環境にやさしいとは言えないとの疑問の声が数多く挙がるようになりました。
そこで、環境にあまり負荷をかけず持続可能な形での再生可能エネルギーの存在がフォーカスされるようになり、エネルギー事業にも競争による効率化を取り入れるため、電力の小売り自由化が進められています。
福島第一原子力発電所事故直後の様子
(引用:毎日新聞)
これまでの原子力発電や火力発電で生産された電気は、大規模・集中型の生産方法のものだと言えます。これは、電気には安価に大量に遠隔地へ輸送することができる特徴があるため、一括して生産した方が効率的でした。
これに対し再生可能エネルギーは、自然エネルギーを利用するため、そのエネルギー資源が存在する場所の近くで生産する必要があり、分散・小規模型の生産方法になります。
分散・小規模型には様々な利点が存在します。まず、電気の発電地と消費地が近いことで、送電ロスが減ることになります。電気を遠隔地に送るためには交流の電気を変圧する必要がありその際にロスが発生しますが、発電地と消費地が近ければ、直流の電気をそのまま送電することができ、ロスを減らせます。
また、地方創生との関連でも重要なメリットがあります。大規模・集中型の場合、地方の電気料金は、発電の原材料(石油など)代金は海外へ、利益の部分は都市部の大企業である電力会社に流出してしまっていましたが、分散・小規模型の場合、地域内に新電力会社を設立することで、流出していた資金が域内にとどまり流通することになります。その額はなんと1世帯年間15万円。この資金が地域内で循環し地域を潤すことになります。
そのため、電力の公益性とも関連して、地方自治体が新電力会社の設立に関与する事例が増えています。今回取り上げた取り組みもその一つです。
海外の先進事例として、再生可能エネルギー比率を高めたことで地域内経済循環を実現させた都市があります。オーストリアのギュッシング市です。
同市は、1992年に市長が化石燃料からの脱却を提案。木質バイオマスを利用した電気や熱のエネルギー供給などにより、2009年には同市の再生可能エネルギー比率が98%に到達、温暖化ガス排出量は95%削減されました。2005年の統計では、地域内経済循環額は21倍(1991年対比)に増え、企業の立地が新たに50件増え、市の税収は3倍にまで増えました。新規雇用数は1,100人に上り、余った電力と熱は域外に販売することで、外部からの収入も増えています。
「オーストリアで最も貧しい地域」と呼ばれた姿から、驚きの変貌を遂げました。
日本とオーストリアの共通点は、森林大国であること。多くを参考にできそうです。
木質バイオマス発電プラント
(引用:事業構想HP)
日本国内で知られた事例としては、神奈川県小田原市の市民発電会社「ほうとくエネルギー㈱」が挙げられます。
ほうとくエネルギーは、東日本大震災をきっかけに、エネルギー集中生産体制の脆弱性を再認識し、エネルギーの自給自足は不可避の課題と認識。当初、地元企業24社が3400万円を出資し設立されました。現在は38社、資本金5800万円に規模を拡大しています。
事業内容としては、市民の出資を募り、太陽光発電を行う小田原メガソーラー市民発電所の運営や、公共施設の屋根貸し太陽光発電事業を行っています。公共施設の屋根貸し太陽光発電は、公共施設の有効活用されていない発電資源である屋根を借り受け、太陽光発電を行うものです。その他に、エネルギー教育も実施し、将来的に小水力発電やバイオマス発電等の再生可能エネルギー事業を加速させていくとしています。
事業を通じて得た収益に関しては、出資者に還元するとともに、防災拠点である施設に蓄電池の寄贈を行う計画です。
このように、防災や災害の際のリスク回避の観点から始まった取り組みであるものの、分散・小規模型の発電は、発電資源も地域から調達を行い、市民が払った電気料金も収益として地域に還元される仕組みとなっています。このことは、資金の域内循環が活発となり、富が域外に流出することを防ぐ効果があります。結果として、地域が潤うことになります。
この域内循環の活発化こそが、地域創生の本質ではないでしょうか。昨今の外国人旅行客の取り込みに関しても、地域創生の本質において共通するものと思われます。
風力発電 水力発電 太陽光発電 バイオマス発電
(引用:スマラボHP)
環境負荷があまりかからず持続可能な社会の実現のために魅力的な再生可能エネルギーですが、課題は山積しています。大きく分けて3つの課題が存在します。(1)採算性、(2)再生可能エネルギー資源の供給性、(3)法律です。
まず、どんなに持続可能性があり仕組みとして魅力的であっても、投資対効果を考えた採算性が合わなければ、事業化は進みません。例えば、小さな河川や農業用水路に導入可能な小水力発電というものがありますが、メンテナンスの手間が多くかかる割には、現在の発電効率では投資回収に10年を要し、割に合いません。発電効率の向上と導入コストの低廉化が必須です。地熱発電においては、調査や実験、掘削などを含めると、発電開始までに10年がかかると言われ、大資本が無ければ、事業化すらままなりません。
次に、再生可能エネルギー資源の供給性の問題ですが、発電の為に適した立地でなければならないものや、発電資源の継続的な供給が見込めないものも存在します。例えば、風力発電であれば、吹く風の強さが弱ければ発電力が減り、強ければ風車の羽が破損してしまいます。また、その風が途切れなく継続的に吹く立地が最も望ましいため、候補地選定が難しいのです。一方、木質バイオマス発電においては、林業の担い手が少ないため、森林資源が豊富に存在しても間伐材等の継続的な供給が行えないリスクが存在します。
さらに、法律の壁も存在します。水力発電においては、河川法や水利権への対応が必要であり、地熱発電においては、自然公園法という法律の制限も存在します。各種発電方法それぞれに、法律による規制が存在しているので、事業化を行おうにも、断念せざるを得ないことも多いのです。
地方創生にとって重要なことは、前述の通り、資金の域内循環を高める点にあります。地域の特徴に合った再生可能エネルギーを選択し、地域に雇用を生み、資金が域内で循環する仕組みの構築が最も重要です。継続性の観点からは、発電資源の継続的な供給の確保がポイントとなります。
域内に雇用が生まれ域内経済循環が高まれば、自治体の税収も増えるでしょう。その増額分についても、地域の発展に向けた、地域にお金が落ちる形で再投資を行うのが望ましいです。
この種の取り組みは、日本においてはまだ始まったばかりです。成功事例と呼べるものも、まだ多くはありません。
ですが、再生可能エネルギーの成功モデルがある程度完成すれば、その仕組みは、エネルギー供給に課題を抱える他国へと仕組みごと輸出できるものとなるでしょう。
今後もこの動きをよく注視し、発展に期待したいです。